人間の本能的欲求とは何か?その探し方とは?

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あなたは何か商品を買う時に、「なんかピンとこないな~」と思って他の商品を選んだことはありませんか?

多くの人は、そのとき自分がその商品を選ばなかった理由を明確に言語化できません。

なぜなら、自分の中でも顕在化していない意識が、その商品を選ばせなかったからなのです。

人間の思考や行動はどこからくるか?

人間の思考や行動は、5%の意識と95%の無意識とで成り立っていて、大部分の無意識が人間の思考や行動に大きな影響を及ぼしていると言われています。

米カリフォルニア大学バークレー校 A・K・プラディープ博士は、彼の著書の中で、脳の情報処理の最大95%は「潜在意識」が行っていると言っています。

潜在意識とは無意識の本能的欲求であり、本人も意識していない、無意識下の行動や本音のことを言います。

だからこそ「あなたの本音は何ですか?」と聞いたところで本能的欲求を見つけ出すことはできません。

本能的欲求とはあくまで洞察するものであり、本音を聞き出そうとしたところで、答えられるようなものではないのです。

かつて、マクドナルドが消費者調査をした結果、「ヘルシーなものが食べたい」という回答が多数ありました。

そこで、サラダを中心としたメニューを開発するものの失敗。

消費者の本能的欲求は「脂っこいジューシーな肉が入ったバーガーに食らいつきたいという背徳感」にあったからです。

たまには後先考えずいまを楽しみたい、そんな本能的欲求を満たすところがマクドナルドであったということです。

これからは本能的欲求の時代

今は、良い商品を作ったからといって、売れる保証はどこにもありません。

それではなぜ、これからは本能的欲求の時代であるのかと言えば、「大体良いんじゃないですか時代」がやってきたからだと言われています。

お茶でも飲みたいな~と思ってコンビニに入って、絶対これだけは飲みたくないというお茶がありますか?

逆に、これじゃなきゃ飲まないというお茶もありませんよね?

物質的に豊かになった時代において、大体良いんじゃないと思えるモノが溢れる時代になったんです。

しかし、そんな時代においても売れているブランドというものが存在します。

売れている理由は、消費者の本能的欲求を洞察し、そこを自社ブランドの価値で衝いているからです。

それが実現できると「買わないではいられない」くらい激的に消費者の購買意欲を高めることができるのです。

本能的欲求について

人間の8つの本能的欲求

電通の新たな消費者研究プロジェクト「DENTSU DESIRE DESIGN」は、本能的欲求へのアプローチとして「人間の8つの本能的欲求」をまとめました。

❶挑戦、達成:挑戦したい/成長したい/達成感を味わいたい/何かを創りたい/うまくやりたい/効率よくしたい
❷優越:ステータス特権が欲しい/人から好かれたい/一目を置かれたい/よく思われたい/人より優れたい/優れいてると思われたい/人に影響を与えたい/人をコントロールしたい
❸好奇心、刺激:知りたい/学びたい/探求したい/刺激を受けたい/感度したい/興奮したい
❹承認:人に認められたい/愛されたい/守ってもらいたい/人と出会いたい/友だちや仲間をつくりたい/仲良くなりたい/つながりを大切にしたい/みんなで盛り上がりたい/共感したい
❺奉仕:誰かの役に立ちたい/応援したい/誰かを愛したい/愛情を注ぎたい/教えてあげたい/情報共有したい/社会や環境に良いことをしたい/貢献したい
❻自主、思うがまま:自由でいたい/縛られたくない/自分だけの時間を大事にしたい/邪魔されないようにしたい/自分らしく生きたい/自分らしさを発揮したい/後先考えずいまを楽しみたい/はまりたい/没頭したい/好きにお金を使いたい/必要なものだけでシンプルにしたい/快適に過ごしたい/セクシーな体験をしたい/遊びたい/笑いたい/美味しいものを食べたい飲みたい/モノを集めたい/きれいに保存したい/モノや財産を所有したい/モノや財産を増やしたい
❼適合、維持:伝統や古きよきものを大事にしたい/悪目立ちしたくない/嫌われたくない/批判されたくない/周りに合わせたい/はみ出したくない
❽安全:安心したい/平穏に過ごしたい/健康でいたい/健康になりたい/心の健康を大事にしたい/リラックスしたい/のんびりしたい/危険な目にあいたくない/失敗したくない/損したくない/ラクしたい/ラクになりたい

「マズローの欲求5段階説」

「マズローの欲求5段階説」という人間の欲求を5段階に区分した理論については、ご存知の方も多いのではないでしょうか?

自己実現の欲求:創造的活動がしたい
承認の欲求:自分を認め、他者から認められたい
社会的欲求:他社と関わりたい、集団に属したい
安全の欲求:身の安全を守りたい
●生理的欲求:生命を維持したい

下位の欲求ほど生命維持に関連しており、優先して満たす必要があります。

下位の欲求がある程度満たされると、次の欲求を求めるようになるということです。

本能的欲求の4つの構成要素

本能的欲求の4つの構成要素は以下のとおりです。

これらは消費者の本能的欲求を分析するうえでも非常に役に立つ考え方ですので、自然にこの型で整理ができるくらいまで何度も考え続けると良いです。

❶場面:感情が生まれた場面
❷要因:感情を生み出すきっかけとなった直接的要因
❸背景:感情が生まれることになった背景的な理由
❹気持ち:感情や情緒の部分

❶場面:感情が生まれた場面

❹の気持ちが生まれた瞬間の場面のことです。

どんな状況・状態においてその情緒が生まれているのかを表現してください。

具体的な場所や時間、行為をする人数や関係性など、状況をスケッチをするようなイメージで表現してみてください。

場面を客観的に描くことができれば、消費者の本能的欲求が生まれる行動や体験がありありと浮かび上がってきます

❷要因:感情を生み出すきっかけとなった直接的要因

要因には顧客の行動や体験の「因数分解をしていくイメージ」で、何がその感情を産んでいるのか?何が作用しているのか?を客観的に分析し表現します。

ここで注意して欲しいのは、要因はより具体的である必要があるということです。

例えば、「白地にピンク色のドット柄のパッケージ」のように、誰もがある程度以上同じものを思い浮かべることができる状態まで表現されたものが要因となります。

❸背景:感情が生まれることになった背景的な理由

社会課題や生活環境など、「包括的な視点からの客観的事実」が背景になります。

その際に「どのような環境の中で、どのような生活をしているから、この感情が現れている」ということがストーリーとして明確に繋がっていると良いです。

ここで間違えやすいのが、❸背景に❶場面を描いてしまうことです。

場面はその瞬間を切り取るイメージなので、包括的な視点からの客観的事実である背景とは異なります。

たとえば「保護犬の募金活動にお金を寄付する」という行為について考えてみましょう。

「買い物のお釣りで小銭が余っていた時」などは場面に当たり、背景にはなりません。

より包括的な視点で、生活全体の中での社会課題となっている「ペットの殺処分問題」などを拾い上げることが大切なのです。

本能的欲求の3つのタイプ

本能的欲求には3つのタイプがあります。

❶価値:良いと感じるポジティブな心理
❷不満:嫌いだと感じるネガティブな心理
❸未充足:充たされていないと感じる心理

「価値」の心理は、なぜそれを選ぶのかを探るための、手掛かりとして使えます

ネガティブで嫌いだと感じているものに対しては、「不満」の心理があります。

「不満」の心理は、なぜそれを買わないのか選ばないのかを探る手掛かりとなります

いまは充たされていないが充たされたいという思いや、こうだったらいいのにと思うのには、「未充足欲求」の心理があります。

「未充足欲求」の心理は、何を充たせば買うのか・選ぶのかを探る手掛かりになるのです。

本能的欲求発見の具体事例

NANOX:汚れが落ちているかを何で判断しているか?


NANOXはライオン株式会社の販売する液体洗剤です。

この商品の開発当時、ライバル各社の訴求ポイントは「洗浄力」でした。

日本人は洗濯好きな傾向があり、見た目が汚れていなくても、洗濯をする習慣があります。

だからこそ「汚れが落ちる」ということをアピールしても、どれくらい汚れが落ちているのかが見た目でわからないという問題がありました。

そんな中、ライオンは洗濯にこだわる主婦を集めてグループインタビューを実施し、多くの主婦が洗濯後の衣服のニオイを気にしていることを知りました。

そこから、消費者は汚れが落ちているかを実感するのは、やはり見た目がキレイになったからではないということが明らかになりました。

目に見えない汚れが落ちたのかをニオイで判断していたのです。

そして「嫌なニオイがしなかった時の満足感を求めている」

という消費者インサイトを導きました。

その結果、新商品のコンセプトを「ニオイまで落とす洗剤」としてNANOXを販売し、同社の売上高は前年比1.6倍になったのです。

ファブリーズ:ニオイを消したい訳ではなかった?


P&Gのファブリーズは消臭スプレーとして誰もが知っている商品だと思います。

このファブリーズは「日常の嫌なニオイを消す」というコンセプトで発売されました。

しかし、発売当初はなかなか売上が上がらず苦戦を強いられました。

なぜ売れないのか?P&Gの担当チームは直ぐに消費者に直接会って実態調査を行いました。

その結果、猫を飼っている家庭の飼い主はもはや猫のニオイが気にならず、家で喫煙する家庭もタバコのニオイを気にしていないことがわかりました。

ファブリーズがコンセプトとしていた「日常の嫌なニオイ」は、消費者の意識からは消えていたので

P&Gは巻き返しの戦略を建てるために、逆に当時ファブリーズをよく利用していたファミリー層の母親にインタビューを行いました。

すると、ファミリー層の母親は「掃除を終えたあとに、ご褒美や祝福のような気分でスプレーを噴射している」ということを知りました。

そして、ファブリーズを利用する人の本能的欲求は「達成感や自分へのご褒美として、非日常感のある香りを楽しむこと」にあると仮説を立てました。

こうして「日常の嫌なにおい」を取り除く商品から、「掃除を終えたご褒美」や「日常にフレッシュな香りを加える」というコンセプトの商品に生まれ変わりました。

そして生まれ変わったファブリーズは、2ヶ月で売上が倍増。1年後には2億3000万ドルもの売上になる大ヒット商品になったのです。

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